*恋の歌(43首)*

 3.あしひきの山どりの尾のしだり尾の     ながながし夜をひとりかもねむ ( 柿本人麻呂 )
13.つくばねの峰よりおつるみなの川     恋ぞつもりて淵となりぬる ( 陽成院 )
14.陸奥のしのぶもぢずり誰ゆゑに       乱れそめにしわれならなくに ( 河原左大臣 )
18.住の江の岸による波よるさへや       夢の通ひ路人目よくらむ ( 藤原敏行朝臣 )
19.難波潟みじかき芦のふしの間も       あはでこの世を過ぐしてよとや ( 伊 勢 )
20.わびぬれば今はた同じ難波なる      身をつくしても逢はむとぞ思ふ ( 元良親王 )
21.今来むといひしばかりに長月の      有明の月を待ち出でつるかな ( 素性法師 )
25.名にしおはば逢坂山のさねかずら     人に知られでくるよしもがな ( 三条右大臣 ) 
27.みかの原わきて流るる泉川         いつみきとてか恋しかるらむ ( 中納言兼輔 )
30.有明のつれなく見えし別れより       暁ばかりうきものはなし ( 壬生忠岑 )
38.忘らるる身をば思はず誓ひてし       人の命の惜しくもあるかな ( 右 近 )
39. 朝芽生のをののしの原しのぶれど     あまりてなどか人の恋しき  ( 参議 等 )
40.しのぶれど色に出でにけりわが恋は    ものや思ふと人の問ふまで ( 平 兼盛 )
41.恋すてふわが名はまだき立ちにけり    人知れずこそ思ひそめしか ( 壬生忠見 )
42.契りきなかたみに袖をしぼりつつ      末の松山波こさじとは ( 清原元輔 )
43.逢ひ見ての後の心にくらぶれば       昔はものを思はざりけり ( 権中納言敦忠 )
44.逢ふことの絶えてしなくはなかなかに    人をも身をも恨みざらまし ( 中納言朝忠 )
45.あはれともいふべき人は思ほえで     身のいたづらになりぬべきかな (  権徳公 )
46.由良のとをわたる舟人かぢをたえ     行く方も知らぬ恋の道かな ( 曽禰好忠 )
48.風をいたみ岩うつ波のおのれのみ     砕けてものを思ふころかな ( 源 重之 ) 
49.御垣守衛士のたく火の夜はもえ       昼は消えつつものをこそ思へ ( 大中臣能宣朝臣 )
50.君がため惜しからざらし命さへ        ながくもがなと思ひけるかな ( 藤原義孝 )
51.かくとだにえやは伊吹のさしも草       さしも知らじな燃ゆる思ひを ( 藤原実方朝臣 )
52.明けぬれば暮るるものとは知りながら   なほ恨めしきあさぼらけかな ( 藤原道信朝臣 )
53.歎きつつひとりぬる夜の明くる間は     いかに久しきものとかは知る ( 右大将道綱母 )
54.忘れじの行末までは難ければ        今日をかぎりの命ともがな ( 儀同三司母 )
56.あらざらむこの世のほかの思ひ出に    今ひとたびの逢ふこともがな ( 和泉式部 )
58.有馬山猪名のささ原風吹けば        いでそよ人を忘れやはする ( 大弐三位 )
59.やすらはで寝なましものを小夜更けて    傾くまでの月を見しかな ( 赤染衛門 )
63.今はただ思ひ絶えなむとばかりを      人づてならで言ふよしもがな ( 左京大夫道雅 )
65.恨みわびほさぬ袖だにあるものを      恋に朽ちなく名こそ惜しけれ ( 相 模 )
72.音にきく高師の浜のあだ波は         かけじや袖の濡れもこそすれ ( 祐子内親王家紀伊 )
74.うかりける人を初瀬の山おろしよ       はげしかれとは折らぬものを ( 源俊頼朝臣 )
77.瀬をはやみ岩にせかかる滝川の       われても末に逢はむとぞ思ふ ( 崇徳院 ) 
80.ながからむ心も知らず黒髪の         乱れて今朝はものをこそ思へ ( 待賢門院堀川 )
82.思ひわびさても命はあるものを        憂きに堪へぬは涙なりけり ( 道因法師 ) 
85. 夜もすがらもの思ふ頃は明けやらで     ねやのひまさへつれなかりけり ( 俊恵法師 )
86.なげけとて月やはものを思はする       かこち顔なるわが涙かな ( 西行法師 )
88.難波江の芦のかりねの一夜ゆゑ       身をつくしてや恋ひわたるべき ( 皇嘉門院別当 )
89.玉の緒よ絶なば絶えねながらへば      忍ぶることのよわりもぞする ( 式子内親王 )
90.見せばやな雄島のあまの袖だにも      濡れにぞ濡れし色は変らず ( 殷富門院大輔 )
92.わが袖は潮干にみえぬ沖の石の       人こそ知らね乾く間もなし ( 二条院讃岐 )
97. 来ぬ人をまつほの浦の夕なぎに       焼くや藻塩の身もこがれつつ ( 権中納言定家 )





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