*作者 俊恵法師(しゅんえほうし)
( 現代語訳 )
(いとしい人を想って)夜通しもの思いに沈むこの頃、夜がなかなか明けないので、
(いつまでも明け方の光が射し込まない)寝室の隙間さえも、つれなく冷たいものに思えるのだよ。
( 言葉 )
【夜もすがら】
副詞で「夜通し」とか「一晩中」という意味です。
【もの思ふ頃は】
「もの思ふ」は、恋歌によく出てきますが、つれない人を想って思い悩むという意味です。
「頃は」には「この頃」とか「夜ごと夜ごと」という意味があるので、
全体で「毎晩つれない人のことを想って」という意味になります。
【明けやらで】
「夜が明けきらないで」の意味になります。
下二段動詞「明く」の連用形「明け」に、補助動詞で「すっかり〜し終える」という意味の
「やる」の未然形がつき、さらに打消しの接続助詞「で」が結びついたものです。
【ねやのひまさへ】
「ねや(閨)」は「寝室」のことで、「ひま」は「隙間」を意味します。
「さへ」は「〜でさえ」のことで、ここでは「つれない想い人だけでなく寝室の隙間さえもが」という意味となります。
【つれなかりけり】
「冷たい」とか「無情だ」とかいう意味で、現代語とそう変わりませんね。
「つれなし」という形容詞の連用形に、詠嘆の助動詞「けり」がついた形です。
( 鑑賞 )
毎晩毎晩恋する人を想い続け、夜も眠れないくらい。早く辛い夜が明けないかなあ、
と思っていてもなかなか朝の光は射してくれない。
朝日が射してくる寝室の隙間でさえ、私の思いが通じずつれないのだなあ。
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昔の恋愛の歌は「袖が濡れて乾く暇もない(涙が流れ続けて止まらない。
おかげで涙を拭く着物の袖が乾かない)」など、ちょっとオーバーな表現が多くあります。
それがまた魅力のひとつなのですが、俊恵法師の歌では思い悩むあまり、
不眠症になってしまったようです。
今や不眠症は国民病で、日本人の1割以上がそうだということです。
眠れず昼も夜もぼんやりし続けるのは本当に辛いもの。
ここでは恋の悩みが不眠の原因です。街や御殿で見かける美しいあの人だが、
私の気持ちを知ってか知らずか、いっこうに優しくしてくれない。
つれなく冷たいあの人、いったい私のこの想いはどうしたらいいのだろうか。
閨に入ると沸き上がる想いは、現代でもそのまま共感できることでしょう。
1000年たっても、人間の感じる気持ちは変わらないのだなあ、とつくづく感じてしまいますね。