*作者 祐子内親王家紀伊(ゆうしないしんのうけのきい)
( 現代語訳 )
噂に高い、高師(たかし)の浜にむなしく寄せ返す波にはかからないようにしておきましょう。
袖が濡れては大変ですからね。
(浮気者だと噂に高い、あなたの言葉なぞ、心にかけずにおきましょう。
後で涙にくれて袖を濡らしてはいけませんから)
( 言葉 )
【音に聞く】
「音」はここでは「評判」のことで、「噂に名高い」という意味です。
【高師(たかし)の浜】
和泉国(現在の大阪府南部の堺市浜寺から高石市あたりの一帯)の浜です。
ここでは「高師」に「高し」を掛けた掛詞とし、「評判が高い」を意味させています。
また「浜」は、「波」「ぬれ」の縁語です。
【あだ波】
いたずらに立つ波、むなしく寄せ返す波のことですが、
ここでは浮気な人の誘い言葉のことを暗に言っています。
【かけじや】
「かけまい」の意味で、「波をかけまい」と「想いをかけまい」の二重の意味を込めています。
「じ」は打消の意思の助動詞で、「や」は詠嘆の間投助詞です。
【袖のぬれもこそすれ】
「袖が濡れる」というのは、涙を流して袖が濡れるという意味があり、
恋愛の歌でよく使われます。
恋する想いが嵩じて涙を流すということですね。
ここでは、波で袖が濡れるのと、涙で袖が濡れることを掛けています。
「も・こそ」はそれぞれ係助詞で、複合すると後で起きることへの不安を意味します。
( 鑑賞 )