難波潟 みじかき葦の ふしのまも あはでこの世を すぐしてよとや(なにわがた みじかきあしの ふしのまも あわでこのよを すぐしてよとや)

*作者 伊勢(いせ)


( 現代語訳 )

あなたにほんのひとときでも逢いたいのです
あなたは恋しい人に逢わないでこの世をひとりで過ごせと仰言るのですか?
愛することをおしえてくれたのはあなたなのに・・・・


( 言葉 )




【難波潟】
  今の大阪湾の入り江の部分のこと。
昔は干潟が広がり、芦がたくさん生えていて、名所のひとつになっていました。
「潟」は潮が引いた時に干潟になる遠浅の海のことです。  


【みじかき芦の】

 「芦」は水辺に生えるイネ科の植物。
高さ2~4mになります。
「難波潟 みじかき芦の」までが、この歌の序詞。  


【ふしの間も】

 掛詞で、芦の「節(ふし)」の短さと、逢う時のほんのわずかな時間、という意味を掛けています。  


【逢はでこの世を】
 
「世」は人生や男女の仲などさまざまな意味を持ちます。
ここでは男女から人生の意味まで複数の意味をかけます。
また「世」は「節(よ)」と音が重なり、「節(ふし)」とともに芦の縁語。  


【過ぐしてよとや】

 一生を過ごしてしまえと、あなたは言うのでしょうか、という意味。
「てよ」は完了の助動詞「つ」の命令形です。


( 鑑賞 )


この歌の作者、伊勢は、平安時代の代表的歌人で、
宇多天皇の中宮温子の兄の仲平、宇多天皇、さらに宇
 多天皇の皇子・敦慶親王と結ばれるなど、
恋多き女性として名をはせた閨秀歌人です。
  多感なゆえ、数奇な人生を送りましたが、その奔放ともいえる恋は、
現代女性にも共感できるところではないでしょうか。


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  こんなにも恋したっているのに、
ほんのわずかばかりの時間も逢ってくれないあなた。
このまま人生を逢えないまま、過ごしてしまえとおっしゃるのでしょうか?
 この歌は、逢いに来てくれず結ばれない男への思慕を、
難波潟の芦の節の短さにたとえた、
鋭い感性が感じられる歌で、伊勢の激情を感じさせてくれます。