*作者 清原元輔(きよはらのもとすけ)
( 現代語訳 )
約束したのにね、お互いに泣いて涙に濡れた着物の袖を絞りながら。
末の松山を波が越すことなんてあり得ないように、決して心変わりはしないと。
( 言葉 )
【契りきな】
「契り」は4段活用動詞「契る」の連用形で、主に「(恋の)約束をする」という意味。
「き」は過去の助動詞「き」の終止形、「な」は感動を表す終助詞で、「約束したものでしたよね」
と過去を感動的に回想しています。
【かたみに】
副詞で「お互いに」という意味です。
【袖をしぼりつつ】
「袖をしぼる」というのは「泣き濡れる」という意味で、
涙を拭いた袖がしぼらねばならないほどぐっしょり濡れた、という意味合いです。
大げさに思えますが、平安時代の歌によく使われる表現です。
「つつ」は繰り返しを表す接続詞です。
【末の松山】
現在の宮城県多賀城市周辺です。
【波越さじとは】
「じ」は打消しの推量・意志を表す助動詞で、
「かたみ〜とは」までが「契りきな」に続く倒置法になっています。
末の松山はどんな大きな波でも越せないことから、永遠を表す表現、
「2人の間に心変わりがなく永遠に愛し続ける」ことを表しています。
( 鑑賞 )
あの頃、あなたと約束しましたよね。お互いに袖がぐっしょり濡れて、しぼらねばならないほど涙を流して。
あなたと私の愛情は、永遠に不滅だと、あの波が絶対に越えられないという
「末の松山」のように、2人の心が永遠に変わらぬものだと。
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「後拾遺集」から採られた歌で、詞書に「心変はりてはべりける女に、人に代はりて」とあります。
つまり、永遠の愛を誓ったというのに、女性の方が心変わりをしてしまった。
落胆して、しかも女性を想う心は変わらない。
そういう執着心を描いた一首です。
「男はつらいよ」じゃないですが、男性とは因果なもの。
女性が男につれなくされて振られて悲しむと、哀しいものに映るのですが、
女性が心変わりしてしまうと、
「いつまでもくよくよしてるんじゃないよ、しゃきっとしろ」
なんて言われて、なんとなく間抜けに見えるので始末に負えませんね。
男性でも女性でも、いつまでも思い悩んだりしたり、
思い込みが強烈過ぎると、ストーカーになっちゃったりします。
それではお互いが不幸になります。
「最高の女性だった。もう出会えない」なんて思わずに。
案外男も女も世の中にはたくさん余っていて、いつかしら最高ではないかもしれませんが、
最適な連れ添いに出会えるものなのでしょう。
「恋を忘れる一番良い方法は、新しい恋をすることだ」と言います。
ほら、そこで悩んでないで、新しい恋を探しに出かけましょう。
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この歌の作者、清原元輔は、相当頭の回転の速い、
ウイットに富んだ面白い人だったようです。
平兼盛が、歌合のたびに正装をして長時間考え悩み、
苦吟しているのを見て「予は口に任せて之を詠」
すなわち「そんな深刻に考えないで、思いついたまま詠んでいけばいいじゃないか」
と言ったというエピソードがあります。さらに今昔物語では、都の大通りで落馬して冠を落とした時に、
「あれは仕方なかったんだ。不可抗力だ」と言って周囲で見ていた人々に説いて回ったそうです。
いやはや、面白いというか、しょうがないというか。