*作者 鎌倉右大臣(かまくらのうだいじん)
( 現代語訳 )
世の中の様子が、こんな風にいつまでも変わらずあってほしいものだ。
波打ち際を漕いでゆく漁師の小舟が、
舳先(へさき)にくくった綱で陸から引かれている、
ごく普通の情景が切なくいとしい。
( 言葉 )
【世の中は】
「世の中」は、「今自分が生きているこの世界」という意味です。
【常にもがもな】
「常に」は形容動詞「常なり」の連用形で「永遠に変わらない」という意味です。
「もがも」は難しいことが叶ってほしいという、願望の終助詞、「な」は詠嘆の終助詞です。
全体で「永遠に変わらないでいてほしいものだ」という意味です。
【渚(なぎさ)漕ぐ】
「渚(なぎさ)」は「波打ち際」のことです。
【海人(あま)の小舟(をぶね)の 綱手(つなで)】
「海人(あま)」は「漁師さん」のこと。
「綱手(つなで)」は舟の先に立てた棒に結びつける麻の綱のことです。
川をさかのぼったりするときには、陸からこの綱で引っ張って上がっていきました。
【かなしも】
心を揺さぶるような切なさを表す形容詞「かなし」の終止形に、詠嘆の終助詞「も」がついています。
「心が動かされるなあ」というような意味になります。
( 鑑賞 )