*作者 寂蓮法師(じゃくれんほうし)
( 現代語訳 )
にわか雨が通り過ぎていった後、まだその滴も乾いていない杉や檜の葉の茂りから、
霧が白く沸き上がっている秋の夕暮れ時である。
( 言葉 )
【村雨】
にわか雨のことです。
【まだひぬ】
「露」は雨のしずくのことです。
「ひぬ」は動詞「干る」の未然形「ひ」に打消しの助動詞「ず」の連体形がついて、
「まだ乾かない」という意味になっています。
【真木】
「真」は美称で「良い木材になる木」のことを指しています。
杉や檜、槇などの常緑樹全体をこう言います。
【霧立ちのぼる】
「霧」はもやのことですが、春なら「霞(かすみ)」秋なら「霧(きり)と使い分けられます。
「立ち上る」は「立つ」と「のぼる」の2つの動詞を合わせたもの。
【秋の夕暮れ】
新古今和歌集の幽玄を表す言葉で、秋は寂しい季節であり夕暮れもメランコリックな時間と考えられていました。
( 鑑賞 )
京都の北山などへ行きますと、雨が降った後、杉木立からもや
が立ち上り、うっとりするような幻想的な雰囲気になることがあります。
この歌は、にわか雨が降った秋の夕暮れの幻想的な景色を詠んだ一首です。
「村雨(むらさめ)」という言葉に日本独特の情緒を感じますね。
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よく言われるように、日本は「雨」に関する語彙がとても豊富な国です。
それだけ雨が生活に身近だということでしょう。
秋に降る雨だけでも、
●秋霖(しゅうりん)・秋にしとしと降り続く雨
●村雨(むらさめ)・秋のにわか雨
●時雨(しぐれ)・晩秋から冬にかけて急に降ったり止んだりする雨のこと
などのいろいろな言葉があります。
この歌の中の村雨は、時雨に近いものだという説もあります。
にわか雨の後、霧もやの中に立つ杉木立。幻想的な風景で、
新古今集のもつ幽玄な世界を見事に表したといえるでしょう。