*作者 皇太后宮大夫俊成(こうごうぐうだいぶしゅんぜい)
( 現代語訳 )
この世の中には、悲しみや辛さを逃れる方法などないものだ。
思いつめたあまりに分け入ったこの山の中にさえ、哀しげに鳴く鹿の声が聞こえてくる。
( 言葉 )
【世の中よ】
「よ」は詠嘆の間投助詞です。
「というものは、ああ…」というようなイメージでしょうか。
【道こそなけれ】
「道」とは手段とか手だてといった意味です。
「こそ」は強意の係助詞で「なけれ」は形容詞「なし」の已然形でこその結びとなります。
「(悲しみを逃れる)方法などないものだ」という意味。
【思ひ入(い)る】
「深く考えこむこと」ですが、「入る」は「山に入る=隠遁する」と重ね合わされ、
「隠棲しようと思い詰め、山に入る」という意味になります。
【山の奥にも】
「山の奥」は、俗世間から離れた場所、という意味です。
【鹿ぞ鳴くなる】
牝鹿を慕う牡鹿が山の中で鳴いている風情は、哀れを誘い和歌では人気があります。
「ぞ」は強意の係助詞。「なる」は推定の助動詞「なる」の連体形で、「鹿が鳴いている」という意味です。
( 鑑賞 )