秋風に たなびく雲の 絶え間より もれいづる月の かげのさやけさ(あきかぜに たなびくくもの たえまより もれいずるつきの かげのさやけさ)

*作者 左京大夫顕輔(さきょうのだいぶあきすけ)



( 現代語訳 )


秋風に吹かれて横に長くひき流れる雲の切れ目から、
洩れてくる月の光の、澄みきった美しさといったらどうだろう!



( 言葉 )


【秋風に たなびく】

「に」は原因を示す格助詞です。
動詞の連体形「たなびく」は「横に長くひく」という意味で、
「秋風に吹かれて、横長に伸びてただよう」という意味になります。


【雲の絶え間より】

「絶え間」は「とぎれたその間」という意味です。
「より」はここから、という起点を表す格助詞です。


【もれ出づる月の影のさやけさ】

動詞「もれ出づる」は「もれ出づ」の連体形で、
「こぼれ射してくる」というような意味です。
また「影」はこの場合「光」で、
「月の影」は「月の光」を意味します。
「さやけさ」は形容詞「さやけし」を名詞化したもので、
「澄みわたってくっきりしていること」という意味になります。



( 鑑賞 )

この歌は久安6年に崇徳院に捧げられた百首歌「久安百首」で披露されたものです。
「百首歌」というのは、いくつかのお題に沿って詠んだ歌(題詠)を100首集めたもの。
百人一首の中の崇徳院の歌(77番)も久安百首から取られています。


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秋の澄みわたった夜空を足早に流れていく細い雲。その隙間から洩れてくる月光の美しさ。
ダークブルーの夜の空が目に浮かぶようです。
シンプルに秋の見どころを描ききっていて、しかも非常に格調が高い歌で、
3代にわたる歌学の権威・六条藤家の主の実力が伺い知れます。


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「中秋の名月」の中秋とは8月のことで、旧暦では7・8・9月を秋と定め、
7月を「孟秋」、8月を「仲秋」、9月を「季秋」としたことからきています。
ちなみに孟は「はじめ」という意味で季は「末」という意味を表します。
元々は中国の「望月」という行事が日本に持ち込まれて貴族が祝うようになり、
江戸時代に一般庶民にも広まったということ。
ちょうど秋の収穫前に、豊作を祈願したものとも言われます。