淡路島 かよふ千鳥の 鳴く声に 幾夜ねざめぬ 須磨の関守(あわじしま かようちどりの なくこえに いくよねざめぬ すまのせきもり)

*作者 源兼昌(みなもとのかねまさ)



( 現代語訳 )


(冬の夜)淡路島から渡ってくる千鳥の鳴き声に、
幾夜目を覚まさせられたことだろうか、須磨の関守は。



( 言葉 )


【淡路(あはぢ)島】

兵庫県の西南部沖に位置する島です。


【かよふ】

「通ってくる」の意味です。他に「(淡路島へ)通う」や、
「(淡路島と須磨の間を)行き来する」などの意味である、という説もあります。


【千鳥】

水辺に住む小型の鳥で、群をなして飛びます。
歌の世界では冬の浜辺を象徴する鳥で、妻や友人を慕って鳴くもの寂しいもの、とされていました。


【いく夜寝覚めぬ】

いく晩目を覚まさせられたことだろうか、の意味。
「ぬ」は完了の助動詞の終止形です。
本来は「いく夜」と疑問詞が入るので、「ぬる」が正しいのですが、
語調の面から「ぬ」にしたと思われます。


【須磨の関守】

須磨は、現在の兵庫県神戸市須磨区で、摂津国(現在の兵庫県)の歌枕。
すでに源兼昌の頃にはなくなっていましが、かつては関所が置かれていました。
関守(せきもり)とは、関所の番人のことです。



( 鑑賞 )

摂津国須磨(現在の神戸市須磨)といえば、平安時代は流謫の地で、
在原業平の兄、行平が流れ住んでいた場所です。
その故実に基づいて創作されたのが、源氏物語の「須磨の巻」。
老いた光源氏は退隠していたこの須磨で、
友千鳥 もろ声に鳴く暁は ひとり寝覚の 床もたのもし
という歌を詠みます。
この歌は、それを踏まえた歌なのです。


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  荒涼とした須磨で、海向かいに見える淡路島から千鳥が渡ってくる。
その寂しい鳴き声に、関守がつい眠りを妨げられ目覚めてしまい、
真夜中に自分の孤独な境遇をひっそりと実感する。
なんと寂寞とした歌なのでしょう。