*作者 中納言家持(ちゅうなごんやかもち)
( 現代語訳 )
七夕の日、牽牛と織姫を逢わせるために、
かささぎが翼を連ねて渡したという橋ーー天の川にちらばる
霜のようにさえざえとした星の群れの白さを見ていると、
夜もふけたのだなあと感じてしまうよ。
( 言葉 )
【かささぎの渡せる橋】
天の川のこと。
中国の七夕伝説では、織姫と彦星を七夕の日に逢わせるため、
たくさんのかささぎが翼を連ねて橋を作ったとされます。
【おく霜の 白きを見れば】
「霜」はここでは「天上に散らばる星」のたとえとなっています。
「月落ち烏鳴いて霜天に満つ」という唐詩(張継の作)が元になっていると言われます。
【夜ぞふけにける】
「ぞ〜ける」で係結びになり、詠嘆の助動詞「けり」は連体形の「ける」になります。
( 鑑賞 )
この歌には、2つの読み方があります。
ひとつは冒頭に紹介した唐詩選の張継(ちょうけい)「楓橋夜
泊(ふうきょうやはく)」の一節「月落ち烏(からす)啼いて、
霜天に満つ」を元にしたもので、
冬の冴えわたる夜空の星を、白い霜に見立てたもの。
冬の夜空を見上げて、天の川に輝く夜空の星が美しい。
冬の夜がふけていくなあ、と感じ入っている歌です。
「かささぎの橋」というのは、七夕の織り姫と彦星の話のことです。
中国では七夕の一日だけ、
たくさんのかささぎが天の川に翼を広げて織り姫の元へ彦星が渡って行けるようにしたわけです。
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もうひとつは、「かささぎの橋」を奈良は平城京の御殿の階段になぞらえたもの。
宮中はよく「天上界」になぞらえられ、
「橋」と「階(はし)」の音が同じことからきたものです。
宮中の夜の見張り番「宿直(とのい)」をしている深夜に、
紫宸殿の階段に霜が降り積もっているのを見て、
「天上をつなぐ階段に霜が積もり、白々と輝いている。
冬の夜も更けたものだ」と感じているというストーリーです。