ひさかたの 光のどけき 春の日に しづ心なく 花の散るらむ(ひさかたの ひかりのどけき はるのひに しずこころなく はなのちるらん)

*作者 紀友則(きのとものり)



( 現代語訳 )


こんなに日の光がのどかに射している春の日に、
なぜ桜の花は落ち着かなげに散っているのだろうか。



( 言葉 )



【ひさかたの】
日・月・空などにかかる枕詞です。ここでは「(日の)光」にかかっています。  


【光のどけき】

 「日の光が穏やか」という意味です。
「のどけし」には、のんびりとしているな、などというほどの意味もあります。


【静心なく】

「静心(しづごころ)」は「落ち着いた心」という意味です。
「落ち着いた心がなく」という意味で、
散る桜の花を人間のように見立てる擬人法を使っています。  


【花の】

花はもちろん桜のことです。


【散るらむ】

「らむ」は目に見えるところでの推量の助動詞で、
「どうして〜だろう」という意味です。
どうして、心静めずに桜は散っているのだろうか、というような意味になります。



( 鑑賞 )


柔らかな春の日差しの中を、桜の花びらが散っていく。
こんなにのどかな春の一日なのに、
花びらはどうしてこんなにあわただしく散っていくのか、
静める心はないのか、という歌です。
とても日本的で美しい光景。
そんな桜の美しさが匂うような歌といえるでしょう。
  情景が目に浮かぶ、非常に視覚的で華やかな歌でありながら、
 同時に散り行く桜の哀愁もどことなく感じられます。
  紀友則は古今集の撰者でしたが、
この歌は、古今集の中でも特に名歌とされていました。