*作者 春道列樹(はるみちのつらき)
( 現代語訳 )
山の中の川に、風が掛けた流れ止めの柵(しがらみ)がある。それは、流れきれないでいる紅葉の集まりだったよ。
( 言葉 )
【山川(やまがわ)】
山の中にある川、谷川のこと。
「やまがわ」という読みが重要で、「やまかわ」と読むと「山と川」という意味になります。
【しがらみ】
「柵」と書いて「しがらみ」と読みます。
川の流れを堰き止めるために、川の中に杭を打って竹を横に張ったものです。
ここでは「風がしがらみを掛けた」とあるので、風を人のように扱う擬人法を使っています。
【流れもあへぬ】
流れようとしても流れきれない、という意味。
「あへぬ」は、「あふ」の打消し形で「〜しきれない」の意味です。
【紅葉なりけり】
「紅葉なりけり」の「けり」は、今気づいた、という感動を示す。
またこの歌は、紅葉を柵(しがらみ)に「見立て」ています。
( 鑑賞 )
風が吹いて、美しい山中の川にところどころ紅葉がかたまっているところがある。
まるで風が作った堰止め用の柵(しがらみ)のようだなあ。
川に広がる紅葉の鮮明な色が目に浮かんでくるような、非常に美しい、ビジュアルな歌です。
しかも、「風のかけたるしがらみは」と、風を人になぞらえる擬人法を使った歌でもあります。
擬人法は、当時最新のテクニックとしてもてはやされました。
博学な文章生として、文学の研究を続けた春道らしい華麗な歌といえるでしょう。
*--------*
「古今集」には、詞書として「志賀の山越えにて詠める」とあります。
「志賀」というのは、今の滋賀県。京都東山の銀閣寺の北から、瓜生山を北に見て、
比叡山と如意ヶ嶽を抜け、近江国の大津(今の大津市)へ達する山道があり、
その道を「志賀越道」と言いました。
志賀寺(崇福寺=すうふくじ)へお参りする参道です。
春道は、その山中で美しい紅葉のしがらみを見つけたのでしょう。
定家もこの歌を気に入っていたらしく、本歌取りして
「木の葉もて 風のかけたるしがらみに さてもよどまぬ 秋の暮れかな」という歌を残しています。